福島第一原子力発電所事故から何を学ぶか
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2011年10月28日(金)
大前 研一(BBT大学学長)
プレスリリース
「福島第一原子力発電所事故から何を学ぶか」
プロジェクトについて
- 背景
- 会員向けのテレビ番組「ビジネス・ブレークスルー(BBT)」の福島第一原発事故に関する放送を、3月12日、同19日に連続してYouTubeにアップしたところ、250万回を超えるアクセスがあった。引き続き、著書『日本復興計画』(文藝春秋)等を通じて情報発信していたが、必ずしも政府が真実を伝えているとは言い難いと判断した。そこで、事故再発防止ご担当の細野豪志・首相補佐官(当時)に対して、次の提案を行った。
- ストレステストや保安院の作業に対する「民間の中立的な立場からのセカンド・オピニオン」として検討プロジェクトを発足し、3カ月以内に事故分析と再発防止策に関する提言をまとめたい
- 本プロジェクトは、納税者・一市民の立場からボランティア・ベースで実施する為、調査に必要な情報へのアクセスの仲介だけをお願いしたい
- 客観的な視点から取りまとめるので、その内容に関しては、国や電力事業者の期待するものになるかどうかは分からない
- プロジェクトの存在については、報告がまとまるまで、秘密裏に取り扱って頂きたい
- プロジェクト・チーム
- MITで原子力工学博士号を取得し、株式会社日立製作所で高速増殖炉の炉心設計を行っていた大前研一が総括責任者。プロジェクト・マネジメントの経験をもつ柴田巌ら2名が事務局。インタビュー、ヒアリング等の情報聴取に対し、原子炉オペレーションの専門家として東京電力株式会社及び電力グループから2名、原子炉の設計専門家として日立GEニュークリア・エナジー株式会社2名、株式会社東芝4名の協力を得た。
- 作業工程
- BWR型を中心に、主に福島第一、福島第二、女川、東海第二原子力発電所を調査した。
- 何が起きたのか?
全プラントに対し、地震発生から時系列で何がどういう経緯で起きたのかを追跡(クロノロジー)
- 原因・誘因は何か?
大事故に至った4基(福島第一1、2、3、4号機)と、冷温停止にこぎ着けた他の原子炉(福島第一5、6号機、福島第二、女川、東海第二)との比較、差異分析
- 教訓は何か?
設計思想、設計指針と事故に至った経緯(クロノロジー)との因果関係分析
- 組織・リスク管理体制
苛酷事故における組織運営体系上の問題点の抽出(事故、放射能、避難指示、地元自治体との関係など)
- 情報開示
国民への情報開示、その課題
結論
- 教訓
- 最大の教訓は、津波等に対する「想定が甘かった」事ではなく、「どんな事が起きても苛酷事故は起こさない」という「設計思想・指針」が無かった事である――その意味で、福島第一原発の4基の重大事故は、天災ではなく人災である
- 設計思想に誤りがあった(格納容器神話、確率論)
- 設計指針が間違っていた(全交流電源の長期喪失、常用と非常用の識別)
- 炉心溶融から引き起こされる大量の水素及び核分裂生成物の発生・飛散は想定外(水素検知と水素爆発の防止装置)
- 当初の設計にはなかった“偶然”が大事故を防いだケースが複数ある(第一6号機の空冷非常用発電機など)
- 提言
- 再発防止のために。そして、原発再稼動の是非を論理的に議論するために
- 監督・監視の責任の明確化(人災であるにも拘わらず未だに誰も責任をとっていない)
- いくら想定を高くしても、それ以上の事は起こり得る。「いかなる状況に陥っても電源と冷却源(最終ヒートシンク)を確保する」設計思想への転換。それをクリアできない原子炉は再稼働しない
- 「同じ仕組みの多重化」ではなく、「原理の異なる多重化」が必須
- 「常用、非常用、超過酷事故用」の3系統の独立した設計・運用システムを構築する
- 事故モード(Accident Management)になった時には、リアルタイムで地元と情報共有し、共同で意思決定できる仕組みの構築
- 事業者・行政も含め、超過酷事故を想定した共用オフサイト装置・施設や自衛隊の出動などを検討する
- 全世界の原子炉の多くも同じ設計思想になっているので、本報告書の内容を共有する
重要な知見
- 電源喪失
- 外部交流電源は、地震によって大きく破損している(オンサイトの電源確保が鍵となる)。そして、その後の長期にわたる全電源喪失(直流、交流)が致命傷となった
- 非常用発電装置が水没
- 海側に設置した非常用冷却ポンプとモーターが損傷
- 直流電源(バッテリー)が水没
- 外部電源取り込み用の電源盤が水没
これらはいずれも想定を超える巨大津波がもたらした損壊である。しかし、大事故に至った理由は津波に対する想定が甘かったからではない
- - より小さな津波でも、海岸に並んだ非常用冷却水取り入れ装置は破壊される
- - 水没しない空冷非常用電源が健全であった事などが生死を分けている
- 設計思想
- どの様な事象が発生しても、電源と冷却源(及び手段)を確保する設計思想であれば、緊急停止した炉心を「冷やす」手段は講じられ、過酷事故を防げたはずである
- 「長期間にわたる全交流電源喪失は考慮する必要はない」という原子力安全委員会の指針に代表される設計思想は、この重要な点を軽視していたと言わざるを得ない。今回の巨大事故につながった直接原因である
- 事故当時の国民へのメッセージは適切であったのか?
- 福島第一1号機のメルトダウンは、3月11日当時すでに分かっていたはずであるが、その後一ヶ月が経過しても「メルトダウンは起こっていない」とする発表との乖離は大きい
- 国民や国際社会に対する情報開示は適切であったのか、疑問が残る
- 当時の憶測や風評について
- プロジェクトが調査した範囲では、以下を裏付ける事実は見当たらなかった
- 海水注入やベント実施が遅れた為に、福島第一1号機の事象進展を著しく早めた
- 地震による大規模な配管破断が起きた為に、同1号機の事象進展を著しく早めた
- 格納容器がマーク1型であった為に、同1号機の事象進展を著しく早めた
- 福島第一原発において過度な運転ミスがあった為に、事象進展が早まった
- 福島第一4号機の水素爆発は、同プラント内の使用済み燃料の溶融が主因で発生した
今回の主因は、「いかなる状況下においても、プラントに対する電源と冷却源を提供する」という安全思想、設計思想が不十分だった点にあり、今後の再発防止においても、この点を中心に議論すべきである
- 正当・公平に評価されるべき点
-
- 大地震においても、全ての原子炉は正常に緊急停止(スクラム)している。大規模な配管破断も起きていない
- また3月11日当時、最悪の極限的な危険の下で現場対応に当った福島第一の運転チームがマニュアル以上の奮闘をした点も同様
報告書、内容の公開について
- 報告書(全て)は、以下にて閲覧可能
- 本記者発表、報告書の詳細説明の映像(120分)は、以下にて閲覧可能
- PWR型原子炉等、今後の検討結果も順次公開
- 個別のマスコミ取材はお受けいたしません
- 事実関係に関するお問合せ先: secretary@work.ohmae.co.jp
以上